私たちが生活する現代社会は、情報技術の恩恵なくしては成り立ちません。スマートフォンでの買い物から、クラウドサービスを利用したビジネス、SNSでのコミュニケーションに至るまで、あらゆる活動がデジタル化されています。この利便性の裏側には常に「セキュリティ」という名の影が潜んでおり、サイバー脅威は日々進化し、巧妙化しています。もはやセキュリティ対策は、専門家や大企業だけのものではなく、私たち一人ひとりが身につけるべき必須スキルと言えるでしょう。

このコラムでは、なぜセキュリティ対策が必要なのかという基本から、個人として、また組織の一員として今日から実践できる具体的な対策までを解説します。

なぜセキュリティ対策が必要なのか?

私たちが日々利用しているデジタルサービスは、便利な反面、常に悪意を持った第三者の標的となっています。攻撃の手口は年々巧妙化し、個人ユーザーを狙った詐欺やウイルス感染の被害は増加の一途をたどっています。

サイバー攻撃は身近な脅威

かつては企業や政府機関が主な標的でしたが、現在は一般の個人ユーザーも例外ではありません。あなたのスマホやパソコンが、知らぬ間にウイルスに感染し、個人情報が抜き取られたり、サイバー犯罪の「踏み台」として悪用されたりするケースもあります。代表的なものをいくつか見てみましょう。

● フィッシング詐欺
大手企業や公的機関を装ったメールやSMS(ショートメッセージ)を送りつけ、偽のWebサイトに誘導して個人情報を入力させたり、金銭をだまし取ったりする手口です。近年では、宅配業者や通信会社を名乗るものが多く見られます。

● マルウェア感染
コンピュータウイルスなどの悪意のあるソフトウェアに感染させる手口です。添付ファイルを開かせたり、不正なWebサイトを閲覧させたりすることで感染します。特に「ランサムウェア」は、パソコン内のデータを勝手に暗号化し、元に戻すための「身代金(ランサム)」を要求する悪質なソフトウェアです。大切な思い出の写真や業務データが一瞬で失われる可能性があります。

● 不正アクセス
パスワードの使い回しや脆弱性を悪用し、許可なく他人のアカウントやシステムに侵入する手口です。メールアカウントが乗っ取られ、友人や同僚に詐欺メールが送られるといった二次被害も発生します。

これらの被害に遭ってからでは手遅れです。未然に防ぐための「予防」が何よりも重要になります。

脅威は「あなた」を狙っている

多くの人が「自分には重要な情報なんてない」「狙われるわけがない」と考えがちです。しかし、攻撃者にとって重要なのは、あなたの「情報」そのものではなく、それを現金化したり悪用したりできる可能性です。ほんの少しの油断や知識不足が、大きな被害につながる可能性があることを認識する必要があります。

セキュリティ対策の基本行動

具体的にどのような対策を始めれば良いのでしょうか。総務省やIPA(情報処理推進機構)では、「強固なパスワードを設定する」「ソフトウェアを最新に保つ」といった基本的な対策を呼びかけています。ここでは、個人でも企業でもすぐに取り組める対策を紹介します。

パスワードの強化と管理

不正アクセスの多くは、パスワードの推測や使い回しによって引き起こされます。利用するパスワードには対策が必要となります。

● 強固なパスワードを設定
NIST(National Institude of Standards and Technology:米国国立標準技術研究所)の新ガイドライン(SP800-63B)のパスワードポリシーに関する提言では、複雑な文字種の組み合わせ(大文字・小文字、数字、記号をすべて含めるなど)を強制するよりも、十分な長さを持つパスワード(単一認証の場合:15文字以上、多要素認証と併用する場合:8文字以上)を設定することが推奨されています。またパスワードの定期的な変更は、セキュリティ侵害の証拠が無い限り推奨しない、むしろ禁止すべきであるとされています。ユーザーが定期的な変更を強いられると、元のパスワードに似た推測されやすいパスワードを選んだり、付箋にメモをしたりするようになり、結果としてセキュリティが低下してしまいます。

● パスワードの使い回しをしない
セキュリティ対策の基本は、サービスごとに異なるパスワードを使用することです。同じパスワードを使い回すと、一つ漏洩した場合にすべてのサービスが不正アクセス(クレデンシャルスタッフィング攻撃)の危険に晒されます。しかし、複雑なパスワードの管理は困難なため、以下のツール利用を推奨します。

パスワード管理ツール(個人向け)
暗号化された金庫にパスワードを保存し、マスターパスワードで一元管理できます。強力なパスワード自動生成機能もあります。

IDaaS/SSO(企業向け)
一度の認証(SSO)で複数のサービスにアクセス可能になり、個別のパスワード管理が不要になります。企業全体のセキュリティポリシー(多要素認証など)の一元適用・管理も実現します。

● 多要素認証(MFA)を利用
パスワード以外の要素(フィッシング耐性のあるデジタル証明書や生体情報など)を組み合わせて認証する仕組みを利用することで、たとえパスワードが漏洩しても、不正ログインを防ぐことが可能です。

ソフトウェアの最新化

システムやソフトウェアの開発者は、日々新たな脆弱性を発見し、それを修正するためのアップデート(修正プログラム)を提供しています。このアップデートを適用しないまま放置することは、脆弱性を狙って侵入されてしまう可能性があるため、常に最新の状態にアップデートし、弱点を塞いでおくことが最も重要な対策となります。まれにアップデート自体に新たな不具合が含まれていたり、互換性の問題で古いアプリや特定の機能が使えなくなる可能性があります。これらのリスクを避けるためには、重要なアップデートの前にはバックアップを取ることやアップデートの内容を事前に確認することが推奨されます。

● OSの自動更新
Windows、macOS、iOS、Androidなど、利用しているOSの自動アップデート機能を有効に設定しましょう。

● アプリの自動更新
スマートフォンアプリも同様に、公式ストア(App Store, Google Play)で自動更新を有効に設定に設定しましょう。

セキュリティソフトの導入

パソコンやスマートフォンには、ウイルスやマルウェア(不正なソフトウェア)の侵入をリアルタイムで監視・ブロックしてくれる「セキュリティソフト(ウイルス対策ソフト)」の導入は、必須の対策となります。

● 製品選定
有料・無料問わず多くの製品がありますが、第三者機関による評価などを参考に信頼できるメーカーの製品を選び、必ずインストールしておきましょう。Windowsには標準で「Windows Defender」という優秀なセキュリティ機能が搭載されており、これを有効にしておくだけでも効果があります。

● 定義ファイルの自動更新
日々新しいウィルスが発生しております。セキュリティソフトが新しいウイルスを見つけられるように、「ウイルス定義ファイル」を常に最新の状態に保つために自動更新を有効に設定しておきましょう。

不審な情報への警戒

サイバーセキュリティは技術的な対策も重要ですが、最も重要なのは「人の意識」です。サイバー攻撃は、人の心理的な隙を突いてくることが多いためです。

● メール、SMS
身に覚えのないメールやSMS、特にURLリンクや添付ファイルが含まれるものは、絶対に開いたりクリックしたりしないでください。 公式からの連絡に見えても、一度疑いの目を持ってください。不安な場合は、そのサービスの公式Webサイトから直接ログインして情報を確認しましょう。

● スマートフォンアプリ
スマートフォンアプリは、Apple StoreまたはGoogle Playといった公式ストアからインストールしてください。非公式な場所からのダウンロードは、マルウェア感染のリスクが非常に高いです。

● 偽のセキュリティ警告
Webサイト閲覧中に突然表示される「ウイルスに感染しました!」といった警告は、偽物です。指示に従わず、ブラウザを閉じてください。閉じるのが難しい場合は、PCを再起動するなどの対応が必要です。

Wi-FiルーターやVPNルーターの安全対策

Wi-FiルーターやVPNルーターは、外部ネットワークとの接続を担う重要な機器であり、セキュリティ対策が不可欠です。

● ルーターのセキュリティ強化策
①パスワードの変更
初期設定のパスワードは必ず強固なものに変更してください。
②ファームウェアの更新
ルーターの内蔵ソフトウェア(ファームウェア)は、自動更新機能を利用するなどして、常に最新の状態に保ちましょう。
③暗号化方式の選択
Wi-Fiの暗号化は、「WPA2」または「WPA3」などの安全性の高い方式を選び、暗号化キー(パスワード)も推測されにくいものを設定することが重要です。

● 公衆Wi-Fi利用時の注意点
カフェや空港などで提供されている無料の公衆Wi-Fiは、セキュリティレベルが低い可能性があるため、個人情報や機密性の高い情報の送受信は避けてください。安全性を高めるため、VPN(仮想プライベートネットワーク)の利用を検討しましょう。

クラウドサービスの適切な利用

クラウドストレージ(Google Drive、iCloud、OneDriveなど)は便利ですが、情報漏洩のリスクはゼロではありません。

● 共有設定の確認
ファイルやフォルダを共有する際は、共有範囲(誰でもアクセス可能か、特定の人だけか)を適切に設定しているか確認しましょう。意図せず公開設定になっていないか注意する必要があります。

● 暗号化
機密性の高い情報は、クラウドに保存する前に自分で暗号化ソフトを使ってパスワードをかけるなど、二重の対策を検討しましょう。

データのバックアップ

どれだけ対策を講じても、100%安全ということはありません。万が一、ランサムウェアに感染してデータが暗号化されたり、機器の故障でデータが消失したりした場合に備え、大切なデータは必ずバックアップしておきましょう。

● 定期的なバックアップ
業務で使う重要なファイルなどは、外付けハードディスクやUSBメモリに定期的にコピーしておきます。またバックアップデータは、ネットワークから切断して隔離保管することで、ランサムウェアによる二次被害を防げます。

まとめ

セキュリティ対策に「絶対」はありません。攻撃者は常に新たな手口を開発し、防御側はその対策を講じる、というイタチごっこの状態が続いています。だからこそ、一度対策を講じて終わりではなく、継続的に見直し、改善していく姿勢が求められます。

まずは、このコラムで紹介した基本的な対策の中から、まだ着手していないものがあれば、ぜひ今日から実行してみてください。その小さな積み重ねが、あなた自身と大切な情報、そして社会全体の安全を守ることにつながります。デジタル時代の必須スキルとして、セキュリティを意識することから始めてみましょう。

 

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