政府がデジタル化を推進するために取り組んでいる「ガバメントクラウド」をご存知でしょうか?「ガバメントクラウド」とはどのようなものなのかご紹介します。

ガバメントクラウドとは?

国や地方公共団体などの行政機関が共通で利用できるクラウドサービスのIT基盤です。「政府クラウド」とも呼ばれています。
国や地方公共団体では、それぞれ独自にシステムを開発・運用されているため、システムの仕様やデータフォーマットが異なり、連携ができていないという課題がありました。
この課題を解決すべく、ひとつのクラウド上のIT基盤にシステムをまとめて、共通化し運用できるようにしたものが、ガバメントクラウドになります。

ガバメントクラウドと自治体情報セキュリティクラウドの違い

ガバメントクラウドは、デジタル庁が推進する共通のクラウドプラットフォームです。
現在では、ガバメントクラウドの機能の一部を自治体情報セキュリティへ提供するなど、部分的に先行事業にて試行されています。
それに対して自治体情報セキュリティクラウドは、都道府県と市区町村でウェブサーバーを集約し、高度なセキュリティ対策を実現するために構築された仕組みになります。

ガバメントクラウドの仕組み

ガバメントクラウドでは、国が共通のクラウド環境を準備・提供します。
定められた要件に基づいてシステム開発がされるため、国や地方公共団体が独自で開発を行なっていたものが共通で利用できるようになります。

具体的には開発事業者は、基幹業務等のシステムをガバメントクラウド上に構築することができるようになります。
また、複数の開発事業者が基幹業務等のシステムの構築を行い、地方公共団体はそれらの中から利用したいものを選択することが可能です。

令和 4 年度におけるガバメントクラウドの対象となるクラウドサービスは、
・Amazon Web Services
・Google Cloud
・Microsoft Azure
・Oracle Cloud Infrastructure
の4つです。

ガバメントクラウドでのシステム標準化

総務省・デジタル庁では、地方公共団体で利用する基幹業務システムを統一し、標準化する取り組みが進められています。*1
対象となっているのは、以下の 20 業務になります。

・固定資産税(土地、家屋および償却資産にかかる税金に関わる業務管理システム)
・個人住民税(住民に対する行政サービスにかかる税金に関わる業務管理システム)
・法人住民税(法人に対する行政サービスにかかる税金に関わる業務管理システム)
・軽自動車税(軽自動車などの所有者に課せられる税金に関わる業務管理システム)
・国民健康保険(他の医療保険に加入していない住民を対象とした医療保険システム)
・障害者福祉(障害者総合支援法に基づく業務管理システム)
・住民基本台帳(氏名、生年月日、住所などが記載された住民票を編成したシステム)
・戸籍(戸籍の管理を行うシステム)
・戸籍附票(戸籍作成以後の住民票変遷情報を管理するシステム)
・児童手当(児童手当制度に基づく業務管理システム)
・児童扶養手当(児童扶養手当の支給事務に関する業務管理システム)
・子ども・子育て支援(子ども子育て支援制度に基づく業務管理システム)
・国民年金(日本在住の20歳以上60歳未満の住民が加入する公的年金に関するシステム)
・選挙人名簿管理(選挙資格を持つ住民を選挙人として名簿管理するシステム)
・後期高齢者医療(後期高齢者医療制度に基づく業務管理システム)
・介護保険(介護保険制度に基づく業務管理システム)
・生活保護(生活保護行政のための業務管理システム)
・健康管理(住民の健康管理に関わる保健事業のための業務管理システム)
・就学(児童・生徒の学齢簿や就学援助の申請・給付に関する業務管理システム)
・印鑑登録(印鑑による本人証明制度に基づく情報管理システム)

「デジタル・ガバメント実行計画」*2 では、2025 年度中までに地方公共団体すべてがシステム移行を完了することを義務づけています。

*1 https://www.digital.go.jp/policies/local_governments
*2 https://cio.go.jp/digi-gov-actionplan

ガバメントクラウドのメリット

ガバメントクラウドを活用することによる代表的なメリットを紹介します。

1. 業務効率化・サービス向上

ガバメントクラウドでは、システムの仕様やデータの保存形式などを、すべての地方公共団体で統一し共通のクラウド上に保管します。これにより、各地方公共団体が同じデータフォーマットで取り扱えるようになり、地方公共団体で情報共有が必要である場合に情報のやり取りがスムーズになります。ただし、地方公共団体の規模やその特性によっては、統一・標準化のパターンが複数になる可能性はあります。

2. コスト削減

地方公共団体で独自に必要だったサーバや OS、ミドルウェア、アプリケーション等のソフトウェアを所有することや、印刷物などの紙での管理が必要がなくなり、業務時間の短縮、コストの削減につながります。

3. セキュリティ強化

地方公共団体では、各団体が独自にシステム監視やセキュリティ更新を行っているため、団体の規模によりセキュリティ対策のレベルが異なり、また、セキュリティ対策にかける予算に限りがあるため、セキュリティソリューションのコストが合わず導入を見合わせてしまう場合があるという課題がありました。ガバメントクラウドでは、高度なセキュリティ要件を満たした「ISMAP」*3 に登録されたクラウドサービス側でシステム監視やセキュリティの更新などが一括して行われるため、一定のセキュリティ基準を満たす環境やシステムを地方公共団体がクラウド上で利用できるようになり、セキュリティレベルの向上が見込めます。

*3 ISMAP(イスマップ)は、Information system Security Management and Assessment Program の略称であり、政府(内閣サイバーセキュリティセンター・デジタル庁・総務省・経済産業省)が運営するクラウドサービスのセキュリティ評価制度のことです。(https://www.ismap.go.jp/csm

4. システム構築・拡張

システム負荷やアクセス数の増加などに応じて、容量を柔軟に拡張させることができます。
また、システムの統一・標準化が実現できれば、固有のカスタマイズに依存し特定の開発事業者に頼らざるを得ないといったベンダーロックインも解消でき、パッケージを検討する際の選択肢が広がります。

まとめ

ガバメントクラウドは、国や地方公共団体の基幹業務システムを標準化させることで、行政機関の業務効率化、データ連携をしやすくすることを実現するためのIT基盤になります。
導入時にはシステム移行作業や準備に手間がかかってしまうかもしれませんが、導入後はデジタル化を進めることでコスト削減や行政サービス利用者の利便性の向上など、多くのメリットが得られることが期待されます。

2023 年 8 月 15 日に、デジタル庁は、ガバメントクラウドの選定基準を見直す方針であると発表しました。
8 月下旬に実施予定の公募では(本日時点ではまだ確認できませんが)、他社製のものなど複数サービスを組み合わせることで要件を満たす形態を認めるとのことです。これはベンダー側から見ると、これまでの1社で基準を満たせる米大手ベンダーのみしかいない、という状態から国産クラウドベンダーも参加できるのではないかと期待します。

 

※記載の製品名は、各社の商標または登録商標です。